【怖い話】曖昧な記憶

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死ぬ程洒落にならない怖い話を集めてみない?137より

224 :223:2006/07/27(木) 11:09:28 ID:ja8/AXvJ0
当時、私は16~17歳でした。
私は京都に住んでおり、私たちの友人の間では、夏休みを利用してあるバイトが恒例になっていました。
それは仲間内で『天国のバイト』と呼ばれており、とあるさびれた駅の駅員のバイトです。
今もあるので、固有名詞は出さないでおきます。
持ち場は全部で3箇所あり、そのどれもが1時間に3本程、観光客を運んでくるのみで、
その前後5分以外は、クーラーの効いた駅員室で漫画を読んだり、ゲームをしたり、宿題をやったりと、
好き放題でした。
それが『天国』と言われる所以です。
他の駅員は、定年退職し、職場を求めた嘱託のおじいさんばかりで、
「今日はなんやしんどいですわぁ」などと言うと、孫ほど離れた私たちが可愛いのか、
嘱託さん達は「それじゃあ宿直室で寝てきたらどうや?」なんか言ってくれるほどヌルイバイトだったのです。

225 :223:2006/07/27(木) 11:10:03 ID:ja8/AXvJ0
それほど美味しいバイトが一般に募集されるはずもなく、
このバイトは自然に毎年、○○高校在学の生徒で埋め尽くされていました。
バイトをしている者は3回目のバイト、つまり3年を迎えると、
次の年そのバイトに入れる『選ばれた人』が一年から数人選出され、代々途切れることなく続いてきていました。
当時のバイトメンバーは、U君、K君、N君、Y君、M先輩、私の計6人。全員男です。
M先輩のみ3年で、残りの5人は2年。その年、1年生はいませんでした。

この出来事は、このバイトに直接関係ありませんが、このバイトをしている環境が問題でした。
全国的にもその周辺は自殺が異様に多く、嘱託の人たちから怖い体験話を聞かされたりしたものです。
自殺した遺体が毎年必ず数体は発見されますが、その発見者はほとんど早朝から出勤する嘱託の方々。
私たちは8~9時頃からの勤務ですので、幸いそういった現場には出くわしませんでした。

226 :223:2006/07/27(木) 11:10:37 ID:ja8/AXvJ0
ある暑い日、私たちはそのバイトを終え、『お疲れ会』を開くことになりました。
お疲れ会というのは、別段変わったことじゃなく、単にバイト後にみんなで雑談するだけのものです。
バイトは2シフトで、終わるのが19時と23時の2種類。
お疲れ会に参加したいけど早番だという場合は、4時間ほど持ち場でヒマを潰して、遅番の終わりを待つのです。
その日は珍しく6人全員が参加しました。
「オレは今日参加しようかなー」というのが残り2人にも波及して、
「じゃあ何もないからオレも」という風に、早番全員が残っていました。

228 :223:2006/07/27(木) 11:11:13 ID:ja8/AXvJ0
お疲れ会の場所は日によって異なりますが、その日は「風情があるやろ」ってことで、
2本の川が合流し、1本の鴨川になる中州に下りて行うことにしました。
中州に下りるには、2本の川に掛かった2つの橋の間から、川べりへと石段を降りていくと着きます。
左右を川がサラサラと流れた砂利の上で座り、いろんな雑談をして楽しんでいました。
K君とN君、それからM先輩はお酒が好きで、近くのコンビニで缶ビールも買い込み、
少しだけ飲めるU君は付き合い程度、全く飲めない私とY君はジュースで、といった具合でした。

229 :223:2006/07/27(木) 11:11:47 ID:ja8/AXvJ0
当時、携帯というものは、まだ限られたビジネスマンが車の中でだけ使う高価なもので、
普及していたのはポケベルとPHS。今の若い方々は知らない方も多いかもしれません。
基本はポケベルで、中にはピッチPHSを持って、ベルと共用している人もいる。そんな時代です。
数字だけが入るポケベルから進化して、その当時は短いカタカナを送ることができました。
街の公衆電話では、女子高生が高速でメッセージを打ちまくる光景をよく目にしました。
11はア、15はオ、21はカ、といった具合に入れるのです。
川原で飲んでいた6人も、それぞれポケベルやPHSを持っていました。

231 :223:2006/07/27(木) 11:12:23 ID:ja8/AXvJ0
皆が談笑しているとき、M先輩のポケベルが鳴り出しました。
他の皆は大して気にすることもなく、話を続けていると、
「あれ?誰やろ…」
M先輩が言いました。
「どうしたんすか?」
誰かが尋ねると、M先輩が自分のポケベルを私たちに見せてくれました。
『ドコニイルノ』
それを見た誰かが冷やかします。
「またぁ~、誰やろって。それはオレらが聞きたいですよ~」とニヤニヤして言います。

232 :223:2006/07/27(木) 11:13:00 ID:ja8/AXvJ0
「いや、ホンマ心当たりないし!」とM先輩が言った瞬間、手に持ってこちらに見せていたベルが再び鳴りました。
確認するM先輩。
訝しげな表情を浮かべ、私たちに見せます。
『ワタシモイレテ』
「どこって聞いておいて、入れてって何やねん。意味分からんわ」とM先輩。
「彼女ちゃうんすか?」
「いや、彼女おらんのん知ってるやろ」
その時は大して気にも留めず、また雑談を再開しました。

数分して、また鳴るM先輩のポケベル。
「もぉ~~~誰やね~ん…」と、また私たちに見せてくれたベルには、
『ナイノ』と。
全員「はぁ~?」と苦笑していました。

233 :223:2006/07/27(木) 11:14:08 ID:ja8/AXvJ0
すると、今度もすかさずもう一度ベルが鳴り、
『ドコニアルノ』
「どこにいる、の次はどこにある、か…」
M先輩はわけが分からない様子で、呆れて鼻で笑っていました。

ところが、ポケットにしまいかけた時、また鳴ったベルを見たM先輩は一気に青ざめたのです。
「…次はなんすか?」
「…どうしたんです?」
興味津々に聞く私たちに、M先輩は何も言わずにベルを見せてくれました。
『ワタシノアタマガナイノ』とありました。

234 :223:2006/07/27(木) 11:14:48 ID:ja8/AXvJ0
皆に見せた後、M先輩はいきなり怒り出しました。
「ちょ、お前ら。オレが霊感強くて、こういう冗談いっちばん嫌いなん知ってるやろ!」
驚く私たち5人。
「誰やねん!こんなふざけたん入れたヤツ。ちょーもうええし、ホンマやめろや」
まで言った時、またベルが鳴りました。
M先輩の真剣さと、もしかして霊的なことなのかという驚きで、
5人も押し黙って、M先輩が確認する様子を見守ります。

確認したM先輩は「ハッ」とひきつった笑いをすると、M先輩はまた見せてくれました。
『アソボウヨ』
見せながら「誰や」と、M先輩は問い質します。
「お前ら、ピッチ(PHSのこと)持ってるやろ。それでこれを入れてるん分かってんねん」
そう言うと、「とりあえず全員ピッチここ出せ。発信履歴見るわ」と言い出しました。
PHSからメッセージを送るには、メッセージセンターに電話を掛けなければいけないので、
発信履歴を見ると確認できるのです。
「オレちゃいますよ…」と皆口々に言いながら、砂利の上にPHSを出していきます。

235 :223:2006/07/27(木) 11:15:22 ID:ja8/AXvJ0
全員が出し終わって、2~3人目のPHSをM先輩が確認し、
「お前もちゃうな」と言った時です。
またベルが鳴ったのです。
全員のPHSがその場に出されているわけですから、その時点で全員の無実が証明されましたが、
同時に、何やら気味の悪いメッセージが、この6人以外から入ってきていることも証明されました。
「え…」と言って、ゆっくりM先輩はベルに再び目をやります。
真顔で差し出してくれました。
『アタマサガシテ』

236 :223:2006/07/27(木) 11:15:57 ID:ja8/AXvJ0
口々に皆気持ち悪がり、
「誰のいたずらか知りませんけど、なんや怖いっすねー」
「うーわ、めっちゃ怖い!」
「霊や、霊や」
「ほんま誰やね~ん」
と少し興奮しつつ、6人が出した答えは、「他の場所に移動する」でした。
川の近くであまり人気が無かったから、という怖さも大きかったからです。
ゴミを集め、6人は降りてきた石段に向かって歩き始めました。

ピリピリピリピリ、ピリ。ピリピリピリピリ、ピリ。
またM先輩のベルが鳴りました。

237 :223:2006/07/27(木) 11:16:32 ID:ja8/AXvJ0
全員M先輩のベルに群がってメッセージを見ます。
『ドコニイクノ』
それを見た瞬間、全員「うわぁぁぁぁ」とか、「おいおいおいおいおい」とか、「これまじでやばいってー!」など、
悲鳴を上げて走り出しました。
石段を駆け登って、停めてあった原チャにまたがり、
一番に走り出した人の方向に従って、一斉に原チャで逃げ出す6人。

結局、最寄の私鉄駅前まで行って先頭が止まりました。
駅前は自動販売機や、公衆電話の人工の光があり、皆ちょっとずつ平静を取り戻してきました。
「さっきのんはやばかったなー」
「オレこんなん初めてやわー」
「ちょっとー今日寝れへんかもしれんやーん」
と、まだ多少遊び半分だったのかもしれません。楽しいハプニングが起きた、と。

238 :223:2006/07/27(木) 11:17:42 ID:ja8/AXvJ0
駅前の街路樹の枠に腰掛けたM先輩が、しばらくして皆に言いました。
「アレはホンマにやばかったと思う。実は最初からちょっとイヤな気はしてた」
「まじですか?」などと皆がリアクションしてる時に、またイヤな音が鳴りました。
M先輩は「勘弁してくれー…」と言いながらも、見ます。
そして一言、「大丈夫そう…」と言って見せてくれました。
『ドコニイッタノ』
皆「見失ったんちゃう?」と言い出し、一人が「今のうちにバラけて家帰ろうや」と言い出しました。
一人で帰るのが怖いという声もありましたが、程なくその案に皆同意、
各自原チャにまたがって、「ほなまた明日なー」などと言って用意している時。
再びベルが鳴ったのを聞いて、6人はピタっと動きを止めました。

239 :223:2006/07/27(木) 11:20:03 ID:ja8/AXvJ0
ベルを確認したM先輩は、「帰るのは中止。移動しよう」と言いながら、ベルをこちらに見せます。
『ミイツケタ』

信号無視もしましたし、首にかけたタオルが風で飛んでも拾いには戻りませんでした。
24時間開いている喫茶店を見つけ駆け込んだ6人の内、3~4人は震えていました。
ドラマのように分かりやすく震えているわけではなく、
椅子に座ると膝がカタカタ揺れ、それがテーブルに伝わって、シュガーケースがコトコト揺れるような震えでした。
移動している間に、
『ドコヘイク』
『オマエ』
『アタマガナイ』
『カエセ』
『アタマヲカエセ』
と、次々とメッセージが入っていたそうです。
もう既に少し放心状態の5人は、それを聞かされても「そうですか…」といった反応。
確かにクーラーは効いていましたが、ほとんどの人間が「ここは寒い」とも言い出し、
もうどうしていいか分からない状態です。

240 :223:2006/07/27(木) 11:20:37 ID:ja8/AXvJ0
1時間ほど喫茶店にいて、結局6人全員で、一番家の近いY君の家にいくことになりました。

Y君の家に着き、Y君の提案で仏間で雑魚寝することに。
「仏さんがいるから守ってくれるんじゃないか?」という安直な考えでした。
それが功を奏したのか、Y君の家に入ってからベルはピタリと止まったのです。

ところが、さらにおかしなことが起こり始めました。
U君が言った一言、「あれ?Kはどこ?」。
K君の姿が見えないのです。
「トイレ?」
トイレにはいませんでした。

241 :223:2006/07/27(木) 11:21:13 ID:ja8/AXvJ0
K君は、Y君の家のどこを探してもいませんでした。
家の前を確認すると、彼の原チャだけありませんでした。
あれほど怖い状況で、一人で無断で帰るとも思えません。
不安になり、K君のPHSに電話を掛けましたが、誰も出ません。
Y君が、「これは非常識とかを気にしている状況じゃないから」と、
とりあえず親御さんにいなくなった旨を報告するため、
PTA会員名簿でK君の自宅電話番号を調べ、自宅に電話しました。
夜中の3~4時頃です。

242 :223:2006/07/27(木) 11:23:55 ID:ja8/AXvJ0
しばらく誰も出ませんでしたが、やがて彼のお母さんが出られました。
「非常識なお時間にすいません。K君と一緒のアルバイトしてるYと言いますが…」
彼はそこまで話して、こちらを見ました。
「『ちょっと待ってね』やって。K、家にいるみたい…」
「はぁ?なんやねんあいつ!」
「帰るんやったら一言言えやー」
と、皆口々に愚痴ります。

しばらくして、電話口に出たKと会話したYが私達に言ったことは、
「あいつ、今日早番で先帰ったとかゆーとる」
全員、顔をしかめて聞き返す。
「なんか、お疲れ会誘われたけど、今日は用事あったから帰ったやんって」
確かに寝起きの声だったそうです。

243 :223:2006/07/27(木) 11:24:55 ID:ja8/AXvJ0
皆よくよく考えましたが、いたようないなかったような、つまり記憶が曖昧なのです。
存在感が無いとかいう話ではないです。
6人のうちの1人なので、いなければすぐ分かるはずなのに、
最初の川原からY君の家に着くまで、誰もが「K君がいない」ことを感じていなかったのです。
でも、「どんなことを話したか」とか、「何か証拠があるか」と言われれば誰も言えない。
ただ、確かに6人だったと皆記憶しています。

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