【怖い話】トンじい

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死ぬ程洒落にならない怖い話を集めてみない?232より

372 :じつ8①:2009/11/29(日) 20:52:58 ID:7p3nKMO3O
では私が体験した実話を投稿します。これは紛れもない事実であります。

私の出身地は、古くからの部落差別の残る地域でした。
当時わたしは小学生でした。
部落差別があるといっても、それは大人の世界での話で、幼い私には差別などわかりませんでした。
子供同士は、どこの地区出身かなど関わりなく仲良くなりますし、
大人達は罪悪感があるのか、子供達の前では部落の話を避けているふしがありましたので、
普段の生活で意識することはあまりありませんでした。
ただ、「○○地区のヤツは気が荒い。あまり仲良くなるな」ということは言われた事があります。
○○地区とは、海沿いにある2つの町を差す地域で、確かに不良が多かったのです。

当時僕は○○地区の友達Y君と仲が良くて、放課後はいつもY君と遊んでいました。
当時僕たちは釣りに夢中になっていました。
Y君の家の近くには海があり、よくY君のお父さんの釣竿を借りては、
穴場を探して海の周りを探索し、釣りをしていました。
このY君のお父さんは、とても怖い人でした。
いつも家にいて、がっしりとした体に短く駆った坊主頭と、
いつもなにかを睨み付けてるような目をしていました。
その怖い外見の通りに気も短く、Y君の家でうるさく騒ごうものなら、
大声で「黙れ、ぶち殺すど!」と、過激な言葉を使い怒鳴りつけてきました。
幼い僕には苦手な大人でした。
ですので、Y君お父さんから借りた釣竿を使うときには、絶対に傷つけないよう注意して扱っていました。

373 :じつ8②:2009/11/29(日) 21:10:23 ID:7p3nKMO3O
ある日、Y君と二人で海のそばの林に入り、釣りのためのスポットを探していると、
古いトンネルを見つけました。
とても小さなトンネルで、長さは5メートルぐらいだったと思います。
中にはゴミが散乱していました。
薄暗いトンネルを抜けた先には、釣りのできそうな入江がみえます。
僕たちはトンネルを秘密基地にしようと喜び、トンネル内に荷物を置いて先の入江で釣りをはじめました。

暫く時間が経ちましたが、魚は全く釣れず退屈していました。
すると突然背後から、「釣れるか?」という声が聞こえました。
驚き振り返ると、破れた服を着た老人が立っていました。
僕は、老人から漂う悪臭に思わず顔をしかめました。
白髪混じりの老人の髪は油っぽくふけだらけで、しわだらけの皮膚の色は黒ずんでいました。
老人は、だるそうに黙って僕たちを見ていました。
その右手には僕たちの荷物があります。
体がすくんで固まる僕の隣で、怯えた声でY君がいいました。
「それ俺たちのです」
「やっぱりか、わしの家にあった」
老人の声はとてもしゃがれていました。
無表情だった顔を動かし、目を細めて、
「あんなとこに置くと誰かに盗まれるぞ」
と笑い、荷物を置いてトンネルの中に入っていきました。

375 :じつ8③:2009/11/29(日) 21:28:29 ID:7p3nKMO3O
残された僕たちは荷物に駆け寄ると、顔見合わせて動揺しました。
老人のような人間をみるのは初めてだったのです。一体何者なんだろうと二人で話しました。
なんにせよ、帰るには再び老人のいるトンネルを抜けなくてはなりません。
僕たちは迷いつつ、おそるおそるトンネルに入りました。
薄暗いトンネル内で、ござの上で横になっている老人の背が見えます。
その横を、音をたてないようそろそろと二人で歩きました。
老人はその間ぴくりとも動きませんでしたが、出口にさしかかった時唐突に言いました。
「遅いから気をつけて帰れよ」
僕は急に老人に興味がわき尋ねました。
「おじいさんはこのトンネルに住んでるの?」
「ああ」
「いつから?」
「お前が産まれる前からじゃ」
「なんで?」
「昔わるさして、罰があたったんじゃ」
「罰でトンネルにいるの?」
「そう。みんなに追い出されたんじゃ」
おじいさんの声は寂しそうでした。
「もう帰れ、おとうとおかあが心配しよるぞ。それと危ないから、ここらにはもう近よるな」
「うん」

しかし、僕たちは翌日も老人のところに行きました。
幼いながらに、老人が悪い人だとは思えなかったのです。
最初は迷惑そうだった老人も、次第に僕たちを可愛がってくれました。
一緒に遊んでくれたり、影送りや、折り紙など、いろんな遊びを教えてくれました。
僕たちは老人のことを『トンじい』と呼び、放課後毎日遊んでいました。

そんな関係が2ヶ月ほど経った頃、事件が起こりました。

376 :じつ8④:2009/11/29(日) 21:51:53 ID:7p3nKMO3O
トンじいはファンタが好きで、僕たちがあげると大事そうに両手で飲んでいました。
「今度は違う味のファンタ持ってくるよ」というと、「ありがとうな」と凄く嬉しそうに笑いました。
その日、トンじいのもとから帰る途中、Y君がふざけて背の釣竿を刀に見たて振り回しはじめました。
勢いよくふった先でつまずきよろけ、とっさに支えにした釣竿がしなって中程が折れました。
Y君は青ざめ泣き出し、「お父さんに殺される」としきりに言いました。

僕は泣きじゃくるYに頼まれ、一緒にYのお父さんのところに謝りにいきました。
折れた釣竿を見るなり、Yのお父さんの顔つきが強ばり目が赤くなりました。
限界まで膨らんだ風船が破裂するのを抑えるように、ぶるぶると震えながら、
「どっちがやったんか?これ」と、平坦な声で言いました。
Yはうつむいて涙を地面に落とし、僕は怖くて黙っていました。
「答えんか!お前がやったんか!!?」
Yの父親は怒鳴りながら、Yの髪を乱暴につかんで無理矢理顔を引き上げると、血走った目で睨み付けました。
「答えんか!!」
「トンじいがした」
Yはしゃくりあげながら、か細い声で呟きました。
「ああ!!?トンじいって誰か!?」
「海のトンネルにいるおじいちゃんがやったんだ」
Yのお父さんは、Yを離すと憎らしげにいいました。
「大山のジジイが、あのやろう」
Yのお父さんは家に入り誰かに電話をかけると、スコップを持って走り去っていきました。
Yは声を上げて泣いていました。

翌日、僕たちは、トンじいのところに怖くて行けませんでした。
Yの話だと、Yの父親は翌日の朝に帰ってきて、「二度とトンネルに近寄るな」といったそうです。

379 :じつ8⑤ ラスト:2009/11/29(日) 22:14:15 ID:7p3nKMO3O
一週間ほどたって、よくやく僕らはトンネルに行きました。
お詫びにとファンタを沢山持って。
しかし、トンじいはいませんでした。
がらんとしたトンネルは静まりかえって、トンじいが使っていたござがそのままにひかれてました。
暫く待ちましたが、仕方ないのでファンタを置いて僕たちは帰りました。

その翌日、再びトンネルにいくと、トンじいはやはりおらず。
昨日置いたファンタは、そのままの状態で置いてありました。
僕は急に不安になってきました。トンネル内の赤黒い汚れが、トンじいの血に見えたのです。
Yは膝をついて号泣し、「ごめんな、ごめんな、トンじい」と繰り返していました。

それから次第にYとも疎遠になり、トンじいと会うことも二度とありませんでした。
大人になって、母に昔トンネルに住んでいる人がいたというと教えてくれました。
「昔、○○地区に大山さんって人がおってね。一家心中なさったんよ。
 自宅に火をつけて、娘さんも奥さんも亡くなったんやけど、大山さんは助かってしまって。
 ただ隣の家にも延焼してしまってね。結局○○地区の人から追い出されてね。
 本当か嘘かトンネルに住んでるって聞いたけど。その人かもしれんね。
 ○○地区の奴らは本当に酷いことするよ」

これで終わりです。
トンじいがどうなったのか僕にはわかりません。
もしかしたら別の場所に移動して、今も元気にしているのかもしれません。
ただ曖昧な記憶で思い返すのです。
あの日以来、Yの父親が持っていったスコップは、Yの家で見なくなったこと。
Yの「ごめんな」の意味を。

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