【怖い話】悪意に満ちた気

スポンサーリンク

死ぬ程洒落にならない怖い話を集めてみない?95より

195 :本当にあった怖い名無し:皇紀2665/04/01(金) 00:26:05 ID:KsMkuVcA0
私は数年前まで、中学校の教員をやっていた者です。
学校というところは、大勢の人間が行き来するだけに、さまざまな『気』が澱んでゆく場所のようです。
よい意味で清々しい気もあれば、悪意に満ちた気もある…
これはそんなことではないかな、という私の体験です。

私が教員になったばかりの頃ですから、今から15年以上前になります。
当時、一人の病弱な男子生徒がいました。
先天的に腎臓に障害があり、小学校時代から定期的に人工透析を受ける生活を続けていた彼は、
自分の病を正面から受け止めて、精一杯生きている少年でした。
『頑張り屋』…当時の彼を知る周囲の一致した評価です。
教室では誰もが自然に、彼に一目置いていました。
体がきつい時でも笑顔を絶やさず、決して人の悪口を言わない。
話も面白いし、友人の悩みごとの相談にものってあげる。
学校を休みがちだったにもかかわらず、勉強でも上位の成績を維持していましたし、それを鼻にかけることもない。
誰もが嫌がる秋の恒例行事『駒ケ岳縦走』も、病をおして三年間とも参加するなど、
大人の我々から見ても、彼の頑張りは尊敬に値するものでした。

それは学校祭も駒ケ岳縦走も終わった、晩秋のことでした。

196 :本当にあった怖い名無し:皇紀2665/04/01(金) 00:28:57 ID:KsMkuVcA0
ある日の放課後のことです。
部活動も終わり、生徒も下校した6時過ぎでした。
すでに日は落ちて、校舎の中はもちろん外も真っ暗になっている時間帯です。
日直だった私は、一人で校舎内を見回っていました。
面倒なので、懐中電灯などは持っていませんでした。
築20年を経た古びた鉄筋校舎の明かりは、廊下のちかちかと薄暗い蛍光灯だけです。
当然、教室の中は真っ暗です。

私の担任していた3年2組の教室の前まで来た時、校庭の常夜灯に照らされて窓際の机に人影が見えました。
正直ぎょっとしましたが、やがてそれが彼であると気づいて、私は躊躇なく教室に入って行きました。
「なんだ○○、驚かすなよ。忘れ物か?」
そんな声を掛けたのだと思います。返事はありませんでした。
「電気くらい点けろよ…びっくりするじゃないか」
言いながら教室の電気を点けました。

197 :本当にあった怖い名無し:皇紀2665/04/01(金) 00:30:21 ID:KsMkuVcA0
古ぼけた蛍光灯が点るまで、一瞬の間がありました。
見ると、彼は自分の机に座ったまま、黙ってこちらを見ています。
私は、必要以上に大声になっている自分に気づきながらも、続けて彼に話しかけました。
なぜだか、話しかけずにはいられない気分で…
「真っ暗じゃないか。何を忘れたんだ?」
彼はまだ黙っています。座ったままです。でもこちらをじっと見ています。
「もう遅いから、早く帰りなさい。あったのか、忘れもの・・」
言いながら彼に近づいていきました。
その時ふっと、彼の表情が変わったように思いました。

198 :本当にあった怖い名無し:皇紀2665/04/01(金) 00:32:49 ID:KsMkuVcA0
「・・何を忘れたんだ」
自分の声が、無残にも尻すぼみになるのが判りました。
そこに居る少年が、いつもの柔和な表情をしていないことに気づいたからです。
それは…厳しい表情でした。
いや、厳しいというより、何か『邪悪な』といった表現がしっくりする表情です。
目がすっと細くなり、薄い唇の端が引きつって震えている。
硬い頬に歯を喰いしばったような筋肉のすじが浮き上がり、
色白の顔には額の血管までもがはっきりと浮き出して見えました。
机の上に置いた白い指が、神経質に震えているのも判りました。

やがて彼は口を開きました。
「はい。もう帰ります」
「あ、ああ。気をつけてな」
私が先に教室を出ました。
彼が口をきいたことで、何故かほっと安堵の想いが湧き上がった私は、
肩越しに振り返りつつ、彼に話しかけました。
「で、何を取りにきたんだ?」
言いながら振り返ったそこには…誰も居ませんでした。
がらんとした無人の教室。
同時に私は思い出したのです。
彼は先週から具合が悪くなり、県外の病院に入院していたことを。
翌日、彼が亡くなったという知らせがありました。

199 :本当にあった怖い名無し:皇紀2665/04/01(金) 00:35:20 ID:KsMkuVcA0
そして、級友たちに見送られて彼が旅立った葬儀の翌日。
一枚の写真を持って、女子生徒たちが憤慨しながら私のところにやってきました。
それは今年の駒ケ岳縦走での集合写真でした。
「先生みてください、これ!!」
それは山頂で撮った、クラスの集合写真でした。
先日から購入希望を募るため、教室の掲示板に貼り出してあったもの。
青空の下、連なる峰々を背景に、それぞれ思い思いの格好でポーズするクラスメイトたち。
しかし、その顔には…
画鋲を無数に突き刺した痕がありました。
全員の顔に、ブツブツと乱暴に穿たれた傷痕。
…いや、正確には「一人を除いて」。
ボロボロの写真の中には、彼の笑顔だけがあったのです。

これは私の単なる錯覚に違いないと思いたいのです。
でもあの教室での彼の表情を思い出す度に、ひやりとするものが私の心に甦るのも事実なのです。

コメント