死ぬ程洒落にならない怖い話を集めてみない?31より
535 :1:03/03/24 14:38
わたしはオムライスが食べられなくなりました。
こんな奇妙な出来事があったからです。
以前わたしは、デパートの7階にあるオムライス専門店でバイトしてました。
基本は火・木の夕方からと、土曜全日。たまに日・祝も働いていました。
ドリアやサンドイッチ等もあり、あとデザート系が充実してましたが、
メニューのほとんどがオムライスで、ソースもトマト、クリーム、ミート、カレー等が選べる、オムライスメインの店でした。
その店に、毎週木曜日の夕方6時頃になると、必ず来店するお爺さんがいました。
きれいな白髪でこざっぱりした身なりの、感じのいいお爺さんでした。
いつも隅の、観葉植物の傍の席に座りました。
ひとつ不思議なのは、お爺さんは毎回違うオムライスを注文するのですが、なぜか2種類を一人前ずつ頼むのです。
うちはハーフサイズもあり、2種類のミニオムライスがセットになってるものもあったので、それをお勧めしたのですが、
毎回普通サイズを2種類注文し、帰る時にはお皿は2つともきれいに片付いていました。
「あの小柄な爺さんが2人前?」と、厨房でも話題になったのですが、
きっと一人暮らしで、次の日用にタッパにでも入れて持ち帰るんだろう、と結論が出て、
「うちでも、持ち帰り用を始めてもいいかもしれないですね」との提案まで出ていました。
そして木曜日。6時を過ぎて、お爺さんが来店しました。
その時わたしがオーダーをとりました。
確か、シーフードのクリームソースと、ベーコンとナスのトマトソースで、いつもどおり一人前ずつ注文受けました。
わたしはいつ持ち帰るのか興味があって、事あるごとにお爺さんを観察していました。
536 :2:03/03/24 14:39
お爺さんのオムライスは2つとも交互に、端からきちんと食べられていました。
どちらも半分程の量になっており、「もしかして2つとも全部食べるのかな・・・」と思って見ていたその瞬間、
それまできちんとしていたお爺さんが突然、左側のオムライスを手で掴むと、傍の手提げ鞄に放り込んだのです。
「えっ!」
思わず声が出ました。
観葉植物で少し隠れていたけど、確かに見ました。
お爺さんの手はクリームソースでベトベトでしたが、紙ナフキンで拭くと、何事もなかったように水を飲んでいました。
ちょうど店が混んでしまい仕事が忙しくなったのですが、わたしは気になって気になってたまらず、
各テーブルに水を注ぎに行く時、お爺さんの所へも廻りました。
水を注ぎながらお皿を見ると、右側ももうなにも乗っていませんでした。
こっちも鞄に入れたのかもと思い、つい身を乗り出してお爺さんの鞄を覗き込もうとしたその時、お爺さんと目が合いました。
今までの印象を覆すような、奇妙なくらい嫌な目つき。
目が合っていたのは1,2秒程の時間だったと思いますが、わたしは硬直して身動き出来ませんでした。
我に返るとうろたえて、そのまま他のテーブルを廻らずに厨房へ戻りました。
もうお爺さんの方を見る事が出来ず、焦りながら仕事をしていたのですが、
気付くともうお爺さんは支払いを済ませて、店を出て行くところでした。
わたしはあまりの衝撃で動揺して、他の人にどう言っていいかわからず、
誰にも話さないまま、その日の仕事を終えました。
537 :3:03/03/24 14:43
店は周りの飲食店と同じく10時閉店でした。
でもうちは酒類のメニューがないのもあって、8時半頃から急に暇になるので、
9時になると遅番の子1人だけになり、他のバイトの子は帰ります。
木曜の遅番はわたしでした。
掃除をし、着替える為に裏の小さい控え室に入り、いつものように縦長のロッカーの鍵を開けました。
開けたとたん、なにかムワッとした臭いがしました。
視線を落とし、わたしは思わず後ずさりました。
ロッカーに取り付けられた、靴を収納する鉄の網の仕切り。
そこにべチャッとオムライスが乗っていました。
わたしは膝を折り、それを凝視しました。半熟の卵やムキ海老が、わたしの靴の中にまで垂れていました。
鍵をかけているのに、有り得ない・・・
むかつくとか泣きたいとかの感情はなく、ただ不安で動揺して、
ティッシュで拭き取って片付けると、すぐにわたしは帰りました。
そして次の木曜日。
わたしは6時になるまでびくびくしていましたが、お爺さんはその日、店を訪れませんでした。
厨房やバイトの皆は、「体の具合悪くしたのかな」と心配気でしたが、わたしはホッとしました。
そして閉店。着替えに行ったわたしは、恐る恐るロッカーを開けました。
また生臭い臭いがたちこめました。
そして、靴の上の仕切りにオムライスが・・・・
しばらく呆然としてそれを見ていましたが、
厨房へ行き、1人残ってタバコを吸っていた調理の人に、
「すいません、ちょっと来てほしいんですけど・・・」と呼びかけました。
「どうしたの」
「あの、ちょっと見てもらえますか?」とロッカーへ連れて行き、
扉を開け、そしてわたしは驚いて叫びました。
「嘘っ!無い!」
跡形も無くオムライスが消えていたのです。
靴にもなにもかかった形跡がなく、臭いもなくなっている・・・
「えっ何?」と調理の人に言われ、わたしは咄嗟に、
「虫がいたと思ったんですけど、気のせいでした。ごめんなさい」と言いました。
「そう?じゃ一応ホウ酸団子置いとくけど・・・」
調理の人は訝しげにわたしを見ると、厨房へ戻りました。
539 :4:03/03/24 14:44
帰り道、わたしは自分を納得させようと必死で考えていました。
確かにオムライスがあった。べチャッと崩れた形。時間の経った卵の臭い。
この前は拭き取っても靴がベタベタして、次の日になってもまだ臭いがしていた。
・・・でも今、靴はなんともない。臭いも全然・・・
考えれば考えるほどわからなくなったわたしは、
バイトで一番仲のいい子に、もう0時近かったのですが電話しました。
そして全部話しました。
その子はずっと相槌打ちながら聞いてたのですが、わたしが話し終えると素っ気なく、
『・・・意味わかんないんだけど』と呟きました。
それは親身になってくれないとかの次元ではなく、あんたおかしいんじゃないの?と思っている声でした。
その後、シフトを木曜から金曜に変えてもらい、もうおかしな事もなくなったのですが、
仲がよかった子がわたしのした話を、『あのこヤバイ』というニュアンスで他のバイトの子に話してしまいました。
それと同時に、お爺さんはもう店に来なくなり、
お爺さんに好感を持っていた皆は、なんとなくわたしを冷たい目で見るようになり、
居辛くなってバイトを辞めてしまいました。
今となっては、わたしが見たのは本当だったのか自信がありません。
あの子のいうとおり、自分でも意味がわかりません。
でも、あのべチャッとした感覚と臭いだけが、記憶に焼きついて離れないのです。
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