死ぬ程洒落にならない怖い話を集めてみない?33より
644 :1/3:03/04/16 20:34
今住んでるマンションから徒歩十数分のところに、ハンバーガー屋がある。
フランチャイズ店ではなく、手作りの味を売りにしている店だ。
セット(バーガー+ポテト+ドリンク)で頼むと800円以上はするし、
すごく美味いってわけでもないせいか、いつ行っても客がいない。
店内はそのくせわりと広いので、ちょっと寂しささえ感じるほどだ。
店は中年男性がレジと厨房、その奥さんらしき女性がウェイトレスや雑用を担当している。
店の奥は彼らの住居に直接繋がっている作りで、よく言えばアットホーム、
悪くいえば生活感があり、飲食店としてはだらしない感じ。
店も店の二人も、70年代を感じさせるスタイル。
それもオシャレな感じじゃなく、ちょっと陰気な、貧乏臭い感じのものだ。
フロアの中央には、各種調味料が置いてある。
おれの好きなサルサソースも置いてあるので、他に食べたいものがない時に、消去法でここに来ることがたまにあった。
調味料置き場には、
『当店のハンバーガーには、独自の味付けをしております。調味料の類は、一度召し上がってからお付け下さい』
というメッセージが書かれている。
独自の味付けっていっても、ケチャップとフレンチドレッシングがかかっているだけだ。(たぶん)
おれは、最初からサルサソースをドバドバかけて食っていた。
645 :2/3:03/04/16 20:35
確か3度目に、この店を訪れた時だったと思う。
レジでの注文時に、
「うちのハンバーガーは、そのまま食べてみて下さいね。
あまり調味料を使うと、味がわからなくなりますからね」
と言われた。
おせっかいだなぁと思いながらも、「ええ」とだけ無難な返事をしておいた。
その日も結局、いきなりサルサソースどばどばで食べた。
それから、なんとはなしにその店に行かなかったのだが、
2,3ヶ月は経ってから、ふとまた食べたくなり、久しぶりに店を訪れた。
「うちのハンバーガーは、そのまま食べてみて下さいね。
あまり調味料を使うと、味がわからなくなりますからね」
はっきりと覚えているわけではないのだが、前回と同じセリフをそっくりそのまま言われた。
で、今回はおっさんの顔がちょっと引き攣っていて、口調も何か感情を押し殺した様に、変に棒読みなんだ。
口元なんかちょっとプルプル震えて、どもりをすれすれで免れた感じ。
ここに至って初めて、ちょっと不審に思った。
この店はレジが一階にあり、客が飲食するフロアは階段を上ったところにある。
ウェイトレスの奥さんも、注文した品を席まで届けると、飲食フロアの奥にある自宅へと引っ込んでしまうので、
おれがハンバーガーを食べているところを、彼らに直接見られた記憶がないのだ。
でも、さっきの口調は通り一遍の説明ではなく、はっきりとおれへの非難が感じられるもの。
いつもおれがサルサソースどばどばやってるのを、見られていたのかな。
646 :3/3:03/04/16 20:36
まあでも、客がどんな食い方をしようと勝手だ。
奥さんが注文したセットを置いて、フロアの奥の方へ向かったのを確認して、
おれはまた調味料コーナーへ向かい、バーガーのバンズを取り、サルサをどばどばかけた。
なんかおっさんが押し付けがましいのがムカつくけど、たまに食うとわりと美味いなーと思いながら、むしゃむしゃやっていた。
半分くらい食べたところだったか、不意にガシャンというガラスの割れる大きな音がした。
驚いて音のする方を反射的に振り返ると、それはフロアの奥の店主達の住居の入り口。
そこから半身だけのぞかせ、店主と奥さんがこちらを凝視していた。
店主は何かを床に叩きつけた直後の様な姿勢で、顔だけこちらを向いている。
一瞬だけ視線が合ったが、すぐに目を逸らせて小走りに店を出た。ただただ怖かった。
彼の表情は、おれに暴力的な危害を加えようというような、つまり、殺気を感じさせるようなものではなかった。
自我の崩壊というものが表情に表れるとしたら、ああいう感じではなかろうか、と思わせるものだった。
さらに数ヵ月後、店の前を通りかかった。
店は売りに出されていた。
貼り紙から察するに、最後に店を訪れてからほどなくのことのようだった。
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