二〇〇九年、中国のとある小さな町で一人の少年が殺された。
少年は両腕を縛られ天井から吊るされており、その両足には重石が括り付けられていた。つまり、上からも下からも引っ張られた状態で死んでいたのである。
その時彼が身に付けていたのは真っ赤なネグリジェ。更にネグリジェの下には女性用の競泳水着を着用していた。どちらも同居している姉の物だったそうだ。
死因は窒息死。
犯人は未だ捕まっていない。
実は、この話は私が中国で最初に聞いた怪談なのだ。
「何か怪談知ってる?」と尋ねると、その場にいた数人が口を揃えて教えてくれたのがこの事件である。
ただの殺人事件が何故、怪談なのかと言うと、この少年が十三歳になった十三日後に殺されているからだ。
遺体の状態に関して不可思議な点はあるが、この程度の殺人事件ならいくらでもある。
それなのにこの事件が今でもオカルト的な注目を集める理由は、十三という数字が関わっているからに他ならない。
しかし、十三を忌み数とするのは主に西洋文化ではないだろうか。
中国では発音が「死」 と似ている四が忌み数とされているため、マンションやホテルの部屋番号に四は使用されないことが多いが、十三を避けるといった話は聞いたことがない。
それ以来、しばらく人に会う度に「中国では十三という数字は良くないんですか?」と尋ねていたのだが、明確に答えてくれた人はいなかった。
何となく不吉なイメージだから、という説明しかできないのである。おそらく中国に昔から根付いている考えというわけではないだろう。
きっと例の未解決事件もどこか日常とは遠いエンターテインメントとして捉えているに違いない。
そう結論付けて納得したのだが。
それからしばらく経ったある日、エレベーターに乗った私は階数ボタンを見て固まった。
十二階の次が十五階だったのである。
何かよく分からないものを何となく忌み嫌う内に、元々なかったはずの理由が生まれて来るような気がした。
この国の人達は十三にどんな理由を与えるのだろう。
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